ナニワ商人の知恵と習慣

商売人と言われる大阪人のDNAに宿る「ナニワ商人(あきんど)」の知恵と習慣

先手必勝(2-4)

「先手必勝」などという。将棋などにも用いるけれども、商売に用いる場合が多い。先ず相手を食うような戦術を用いるのがいいという意味だが、この場合は、あくまでも相手と自分が同じような立場であってこそ成り立つものだということである。

対々の立場である。相手の資本と自分の資本に大きな差がある場合には、決して勝負を挑んではいけないということを示している。相撲の用語に「対々の先」というのがある。これは正確にいえば「待の先」である。この語源は「懸の先」ということになる。ケン(懸)がタイ(待)となり、さらに、これが商人間にタイ(対)となったと思えばいいだろう。

相撲の場合のケン、タイというのは、相手が仕掛けようとする場合に、素早く相手の心理を読んで、こちらから仕掛けていくことをいう。が、ここに微妙な差がある。ケン(懸)の時は、お互いに動こうとしない時である。凝っと相手の出方を窺っている待の時間が必要なのだ。マチ(対)の時は少し状況が違う。この場合は、相手が積極的に出てくる時を待って先手を打つのである。相手が動こうとする鼻先に先制のパンチを放つのである。

大阪商人は、あまり学問という名の知識は重んじない人種だが、こと商売に応用出来るとなると、簡単に吸収してしまう癖がある。

-先んずれば人を制す。

という「史記」の一行などは、商売に勝つために有用だと思えば、企画会議、営業会議ですぐに採用してしまう。

-先んずれば人を制す。後るれば人の制するところとなる。

の一行を胸の奥深くに内蔵して商いに精進する。そして、この史記の文章を碁とか将棋でいう先手後手に当てはめて、社員の奮起を促すのである。

「碁の場合は絶対に先手が有利なんや。普通は五目半のコミをつけるやろ。商売もそれと一緒のこっちや。将棋でも後手が好きという棋士は、かなりの自信のある棋士や。将棋でも先手の方が51パーセント、後手の方は49パーセントの勝ち率やと名人の中原はんがいうてはるぐらいのもんや。名人といわれる人でも、後手の方が不利やというてはるのやさかいになあ」

こういうふうにいうと、かなりの説得力が生じてくる。そして、さらには、相手に考えさす余裕を与えずに粘って押しの一手で進めというのである。