ナニワ商人の知恵と習慣

商売人と言われる大阪人のDNAに宿る「ナニワ商人(あきんど)」の知恵と習慣

先手必勝(3-4)

たしかに、この考え方は商いをする上で有利に働く。実業家の成功した人たちは一様にこの精神に基づいた行動をしているものである。先ず同業者が考えない新製品を開拓した者が市場を制する。先行者が儲けているからといって同様の製品を売り出したとしても、後発はどうしても先発を抜き去ることは出来ない。

ただし、出版事業などでは後発が先発を抜くこともあり得るというのを大阪商人たちはよく知っている。だから、大阪では、出版に手を出す場合は、雑誌のようなものには手を染めないで、参考書とか地味な専門図書を手がけるようにする。また、この先手必勝の考えは、経営者、事業家の個人の生活にまで及ぶ。

社長たる者は、社員よりも常に三十分早く出社すべきだと自分にいい聞かせるのである。社長が早く出社していたなら、無言の裡に社員の気持は引き締まるというものである。

「沈黙は金(きん)やのうて金(かね)でっせ」

という社長もいる。

といって、社員も社長に見習って三十分早く出社するのが出てくるが、社長はこういう社員を重要視しないものだ。こういう社員は単なる見せかけだけのゴマスリということになり、かえって社長の目にはうとましい存在に映ってしまうものである。社員の出社時刻による査定基準を置いている社長もいる。つまり、好ましい出社時刻というものである。

1位は10分前。2位5分前。3位3分前以内。4位ギリギリ。5位20分前。6位30分前。7位は遅刻となっている。社員の場合の時間先手は決して出世の糸口にならないということである。これら社長は、それぞれ独自の信念を持っている。

-善く戦う者は、人を致して人に致されず。

これは「孫子」の言葉である。善戦して勝利を掴む者は、いつも相手よりも一歩先に出て、自分のペースで仕事をしていく者だという。この「孫子」の中の「敵を見破る方法」を経営の根本理念にしている社長もいる。