ナニワ商人の知恵と習慣

商売人と言われる大阪人のDNAに宿る「ナニワ商人(あきんど)」の知恵と習慣

あきんどは「さんずの川」をわたるな(2-3)

そして、ただ見抜いただけではいけないと説く。そういう相手が家に訪ねてきた時には素早く相手の胸あたりを指して、すかさず次のようにいうべしとある。

「おう、ええとこ(いいところ)にやってきたな。実は来るのを待ってたんや。少しまとまった金を貸してくれんかいな」

すると当然のことに相手は愕(おどろ)く。なにしろ、金を借ろうと思っていたのに、顔を合わした途端に金を貸してくれといわれたからである。これでは借金を申し出ることは不可能となってしまう。そこで、なにもいわない裡(うち)にすごすごと退散せざるを得ない。そこで、次のような諺(ことわざ)が生れてくる。

-貸してからの喧嘩よりも貸す前に喧嘩せよ。

貸借関係が双方に生じてから揉め事に入るよりも、貸す前に喧嘩をしておいた方がいいということである。金は一旦自分の手を離れて他人の懐に入ったなら、もうそれは返ってこないものと思えということになる。

-貸す阿呆。

という短いものもある。上方には町人が大名に金を貸すという風習があった。俗にいう大名貸しである。ところが、大名に貸した金の大半は返ってこなかった。そのために金貸しは馬鹿な目を見たわけである。相手が名のある大名だといって安心してはいけない。表向きは派手にやっている大名でも、裏から見れば、台所は火の車なのである。その内情を知らずに金を貸すのは阿呆の代表者だというわけである。次に、


-役就かず。

というのがある。これは町内の世話人なんぞになるなということである。商人本位の大阪では、自分の時間をつとめて大切に守って生きていけというわけである。町内の世話人になったりすると、やれ打合せ、やれ会合といって時間が無駄に過ぎ去ってしまい、自分の時間を喪失してしまうというわけだ。現代でいえば、PTAの会長、副会長、役員なんぞになるなということだ。

商売はたちまちにして傾いてしまうという。この思想は現在にも根強く残っていて、「自分の子供の面倒もみられんのに、他人の子供の面倒なんぞはみられるか」などと広言してはばからない商店主もいる。だからといって、決して仲間意識が薄いかといえばそうではない。商店街のお互いの団結なんぞはどの土地よりも強いし、人情はこまやかである。つまり、利潤の追求には一致団結の精神を発揮するということである。商人は、ただただ自分の砦を守る時間を大切にしろというわけだ。